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好きな作品を発信していきたいブログ

殺戮に彩られた百合の花 -『氷の滅幕』

なろう備忘録第36弾。

あらすじ:
少女は血にまみれ、凶刃を振るい、命を搾取する。愛する人のために強さを求めた彼女は、人の域を越えた力を身につけ、精神の惨状へと踏み込んでしまう。


自分でも制御できない程の愛で狂ってしまった少女。
最愛の人を奪われた少女は、絶望し、泣き叫び、そして復讐を誓った。

少女は力を得るために血を啜った。
肉を食むたびに心は病んだ。
命を摘むたびに人から外れていった。

これは、常識、倫理、道徳観を失い、愛欲のみが残ってしまった少女の物語。



こんばんは。ここ1週間はもうずっとこの作品を読み耽ってました。
5章まで読み終えたところでこの記事を書いているのですが、なんというかもう衝撃の展開すぎてほぼ茫然自失の体になっている。ネタバレになるので詳しく書けないのが残念ですが、とにかくとんでもない作品に出会ってしまったという感じです。

作者さん曰くこの作品のテーマの1つは『狂気』であるらしいが、その描写力が本当に凄かった。一見普通のように見えるが、実際には致命的に思考回路がおかしくなっている狂人の描き方が卓越している。少しずつ、徐々に徐々に、その狂気が周囲に伝染していく様も良い感じに薄気味悪くてもう最高でした。

またこの作品のもう一つの特徴が、ガールズラブ要素が多分に含まれているところ。露骨な描写は少ないのですが、それでもかなり踏み込んで描かれるので、ここは結構人を選ぶかもしれません。メインキャラの一人が夜のテクニックで周囲の女性を落としまくって百合ハーレム築いたりしちゃいますからね…。

あと特筆すべきところは、少女の周囲の人物がとにかく報われないところだろうか。盲愛にとりつかれた少女は一貫してただ一人の女性しか眼中になく、頭もおかしくなってるので、彼女の仲間達はその狂気に引きずられて道を踏み外していく。正直彼らがこの先幸せになる未来が見えない。しかしこのままバッドエンドでも良いのではと思ってしまうほど『悲劇』としてのストーリー展開は申し分ない。

舞台設定もまた魅力的。『一二国記』を彷彿とさせる、16人の魔王が各地に君臨している世界。親交を深めたり、諍いあったりしている彼らの群像劇が読んでいてとにかく面白い。思わず親しみを覚えてしまうような交流をしているかと思えば、人間の領地に踏み入り魔王一人で数万を越える圧倒的な殺戮を行ったりする。

この物語に登場する派閥は神族・魔族・人間の3つ。各々が自らの正義を持っており、信念に従って行動しているので人間族が魔族に蹂躙されても特に胸糞悪くなることもなかった。というか魔王陣の方が人間側に比べて割かしまともなので、魔族側で物語を読んでしまう人も多いのではなかろうか。私もそうだった。

とまあこんな感じの小説です。ネタバレ気を付けて書いたのでよく分からないとこもあるかもですが、少しでも気になったら是非読んでみてほしいです。紛うことなき傑作なので。

氷の滅慕 - 小説家になろう


以下、ネタバレありの備忘録兼、雑感。
好きなシーンを抜粋しつつ感想やら書いていきます。


 

――子供はうっとうしい


それが何故……こうなった?
今の白蓮は、こちらを見上げて来るアルフラの、潤んだ瞳にたじろいでいる。今にもこぼれ落ちそうな涙に、心が痛む。

――私は弱くなった

<氷の滅慕 - アルフラ攻略 そして瞬殺>


なんとなく拾っただけのアルフラとの交流によって次第に絆されていく白蓮さん。得てして溶けかけの氷は脆くなるもので。

近い未来に離れ離れになってしまうことを伝えなければならないのに彼女を慮って言い出せなかったり、涙目のアルフラに庇護欲をくすぐられていつもより多く血をあげちゃう白蓮さん可愛いんじゃ…。

1章終盤の行くところまで行ってしまった彼女らの関係性も堪らん。互いに相手しか見えていない視野狭窄に陥って、どろどろに依存しあう感じ。百合と共依存の親和性。

 

 

人の温もりを知り、溺れそうな程の愛情を注がれた白蓮の心は、ふたたび凍りつく事を拒み、無くした物を取り戻そうと足掻いていた。

<氷の滅慕 - さらなる進化>


アルフラと引き離された淋しさを紛らわすために、周りの少女や、果てには女魔王にまで手を出し始める白蓮さん。その美貌と房中術で女たちを手籠めにしていくの最高です。

灰塚もウルスラも魅月も傾国ちゃんも好きすぎる。時折はいる白蓮ハーレムの日常こぼれ話みたいなのがすごい好きだった。ノクタに灰塚×傾国ちゃんがきゃんきゃんする話が載ってるんですが(最高でした)、他の組み合わせも是非読んでみたい……。

みるふぃーゆ騒動は滅茶苦茶笑った。傾国ちゃん本当良いキャラしてます。

 

 

 「あぁ……白蓮、やっと会えたね」

還元されない愛情。抑圧された想念。――無意識領域下の強い思慕は攻性に転じる。

<氷の滅慕 - オウマガトキマゾクノチニクルフアルフラ>


個人的に好きな一文。アルフラの異常性のようなものが浮き彫りになっていて妙に心に残った。「強い思慕が攻性に転じる」のインパクトが凄い。

5章の白蓮とアルフラの再会シーンは色々と惹きこまれた。感情が暴発し二人の周りのあらゆるものを凍り付くし、たった二人だけの世界で。言葉を交わすほどにどうしようもなくすれ違っていく様が、怪物に成れ果てたアルフラの慟哭が、あまりにも辛くて、それでいてゾクゾクする。

 

 

 「あたしは怖いよ、アルフラちゃん。――あたしは、死ぬのが怖い。アルフラちゃんが死んじまうのが、怖いよ……」

シグナムの視線の先では、地に爪を立て、ようやく体を起こしたアルフラが、暗い眼差まなざしで彼女を見返していた。

「……そんなことより……あたしは白蓮と会えないことのほうが、ずっとつらい……」

<氷の滅慕 - 強く儚いもの>


シグナムの必至な言葉を「そんなことより」と一蹴するアルフラが好き。ここで心が折れてシグナムの手を取るアルフラなんか見たくない。結局アルフラは始終白蓮しか見ていなくて、周りの仲間たちとの間には埋められないほどの溝が出来ていた訳で。これまで彼らが体を張って、信念を押し曲げてまでアルフラに捧げた献身は、まったくもって微塵も彼女に届いていなかった。それが如実に現れたシーンだと思います。シグナムさんマジ報われない……。

この後のアルフラとフレインが抱擁するシーンも、どうしようもないほどに歪んでいて、最高に素晴らしかった。個人的にはこの回が一番好きな話かもしれない。

 

 

通常の感性を持つ者が踏み込めば、嘔吐しかねないほどの嫌悪を催すその部屋で、アルフラは黙々と食事を貪むさぼる。人はそれを鬼畜の所業だと非難するだろう。

おのれの欲望のために人を殺し、あまつさえその血を啜っているのだ。確かに唾棄だきすべき行いである。しかしそれは、人間の倫理や良識といったものに照らし合わせた場合だ。それらは円滑な社会を形成するために人が作り上げたものであって、真理ではない。

みずからの糧として他者を補食し、生き抜く。それは個の生物として正しい。生命のあるべき姿と言えよう。

人の世の善悪を越えたところに、アルフラは立っている。

<氷の滅慕 - 善悪の彼岸 アルフラの最善>

 
落ちるところまで落ちてしまったアルフラ。なんというかもう、ただただ圧倒される。




とりあえずこのへんで。また追記するかもしれない。

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優しさと原風景 -『きみは小さな居候』

なろう備忘録第35弾。

あらすじ:
久し振りに訪れた父方の田舎。そこで、座敷わらしを目撃してしまった主人公。ちょっと世話を焼いたら、見た目、小学校低学年女児な座敷わらしに妙に懐かれてしまい…。

 
大学生の男と座敷わらしの、ほのぼの日常モノ。
読む前は彼らののんびりな日常風景を描くだけの作品かと思っていたが、実際に読んでみると作中のヒューマンドラマな要素が存外しっかりしていて、とても惹きこまれた。もちろんゆる~い日常風景もたくさん描かれていて、彼らのほんの何気ない会話にも癒されました。

それまで真理は、東京の街なかに自然なんかないと思っていた。
街路樹の根本に咲く、タンポポの花に目を留めることなど、今までなかったのだ。
わらしが「春が来たね」と笑って、真理は初めて春を実感したのだ。
< わらしとカッパと夏の空 1話 >

個人的に一番ぐっときたのがここ。何か……上手く言えないけども、とても良いのだ。
この作品の魅力が如実に現れた一文だと思います。


改めて良い作品でした。コメント欄で薦めてくれた方に感謝。

きみは小さな居候
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【小説家になろう】面白そうな作品メモ まとめ

6/16:更新しました。[現在38作品]

こんばんは。
なろうの積読が結構な量になってきたので公開しようと思います。

殆ど未読なので簡易的な紹介になりますが、何らかの参考になれば幸いです。
それではどうぞ。

 

完結済

  タイトル 文字数
1 平和の守護者 3,254,383
現代ファンタジー。能力バトルもの。空を飛びたいと願う少年の成長譚。レビュー数が多い作品は傑作の法則。
2 邪神アベレージ 321,152
目が怖い美少女が異世界に転生して、なんかめっちゃ強くなっちゃったやつ。
3 灰と王国 974,546
なろう要素なしの本格的ファンタジー。割とダーク寄りっぽい。
4 ノームの終わりなき洞穴 754,523
錬金術師と精霊がダンジョン運営。硬派な感じ。
5 魔法少女を助けたい 540,884
現代社会が舞台の魔法少女モノ。主人公は普通の大学生。
6 バグ技と安定チャートでいく、フリーシナリオ異世界攻略! 751,455
さらっと読んでみた感じ割と良質なハーレムもの。攻略本片手にゲームの世界に入ったようなものなので、全てが主人公の思いのままになってて「ん?」ってなるかも。
7 黒姫の魔導書 1,115,407
魔導書に転生した主人公がとある少女に拾われる。感想レビュー見る限り、キャラクターが魅力的らしい。あらすじがボーイミーツガールっぽいので結構気になる。
8 野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ- 585,654
タイトルがすごい。中世世界に転生する作品は数あれど、冷凍睡眠でウン千年未来に飛ばされる作品は初めて見た。アンドロイド萌えなのでこれはハマりそう。
9 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 5,682,766
絶対面白いのは分かってるんだけど、如何せん文字数が多くて中々読み始める気にならない作品。長期休暇中にでもじっくり読みたいやつです。
10 名前のない怪物 979,452
恐怖と謎とエロスが融合した、サスペンスホラー。黒髪、黒セーラー、黒ストのタグが気になる。
11 破戒眼のユーリ ~最強師弟の不思議な関係~ 463,453
TS少女と師匠のほのぼのライフ。年の差カップル。
12 カルマの塔 1,728,270
復讐モノが軸の架空戦記。これはおそらく読み始めたら止まらないヤツ。
13 没落貴族令嬢の異国間結婚奮闘実録 300,620
異文化間の恋愛コメディ。 ほのぼの系っぽい。
14  投擲士と探検技工士は洞窟を潜る 386,373
傭兵+技工士+エルフの少女。目指すは洞窟の最奥。
15 変わらぬモノ <きらめきのゴーレム> 532,343
メタルゴーレムに転生。テンプレ風味のコメディ調っぽい。
17 勇者様のお師匠様 963,814
落ちこぼれ主人公がお師匠様でヒロインが勇者様。ボーイミーツガール。
18 呼び出された殺戮者 1,004,369
殺人。暴力。スプラッタ。ピカレスクっぽい。
19    
 
20    
 

 


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連載中

1 薬屋のひとりごと 607,905
ひょんなことから後宮で下女をすることになった薬師の少女の物語。ちらっと覗いてみたところ、中華な雰囲気・ミステリー・雑学・ちょい恋愛要素という感じ。
2 ンディアナガル殲記 1,406,412
『残酷博覧会』のタグに惹かれる。完結待ち。
3 教えて!誰にでもわかる異世界生活術 713,316
テンプレテンプレしてて良さげ。
4 打ち砕くロッカ 1,561,058
岩属性の少女が落ちこぼれクラスに入って下剋上キルラキル感ある。
5 雷帝のメイド 333,701
ちょっと抜けてる最強少女。少女が無双する作品すき。
6 魔王様、リトライ! 668,144
ゲーム内転生。見た目は魔王、中身は一般人の勘違い系ファンタジー。完結待ち。
7 オークの騎士 820,773
もし武人がオークに転生したら。ロリヒロインと筋骨隆々なオークの絵面。
8 賢者の弟子を名乗る賢者 1,451,105
VRMMOの世界をロリババアが闊歩するはなし。
9 リビティウム皇国のブタクサ姫 1,152,132
TSして少女に転生。勘違い系のほのぼのコメディ。これも完結待ちかなあ。
10 ライブダンジョン! 1,000,659
新星気鋭。ゲーム内転生。不遇のヒーラー職。かなり面白そうだけど、完結を座して待つ。
11 戦乱の帝国と、我が謀略 ~史上最強の国が出来るまで~ 823,909
『目立ちたがりの主人公や、俺TUEEEEを読むのが辛くなってきた人向け』の煽り文句が良いです。三国志を元にした戦記モノ。
12 リライト・ライト・ラスト・トライ 839,050
定められた運命を覆す。ループ系。今夏に完結予定らしい。ファンに愛されてる感がすごい。
13 うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 702,726
少女を拾う。子育て。親バカ。成長後に婚約するらしい。それなんてうさぎドロップ
14 剣士を目指して入学したのに魔法適性9999なんですけど!? 342,882
キャラが元気!可愛い!百合!最高!
15 チートスキルは売り切れだった (仮題) 1,732,060
割と特殊な文体。不思議な雰囲気。妙に評判なので気になる。 
16 その無限の先へ 2,162,114
一発逆転を胸に迷宮都市へ。長らくブクマ放置してたけど、キリの良いところまでいったっぽいしそろそろ手を出してみるべきか。
17 帰ってきた元勇者  960,232
ハーレム作るぜ!って感じの己の欲望に忠実で積極的な主人公ほんと好き。女性関係に受動的なハーレム主人公きらい。
18 異世界に転生したら村八分にされた 2,761,721
裸一貫から這い上がる男のはなし。メインヒロインのNTR有り。
19    
 
20 グラジオラスは曲がらない 1,120,981
「ただの人が、地球から召喚されたあたしに敵うわけないのに」
「気まぐれに力を与えられて、それに酔ってるような連中に、負けて、られるか」
主人公は、異世界の現地人。敵は、チート持ちの転生者たち。
21    
 


随時更新。

 

守るべきもの -『刃金の翼』

なろう備忘録第34弾。

あらすじ: 
五色の神と四大国によって繁栄するパルセルト大陸。数年ぶりの魔物の侵攻が噂される最中、冒険者を養成するルベリア学園で仲間を探す少年少女は風変わりな男に出会う。サムライを名乗る男は英雄たりえる力を持ちながら、魔力を失い落ちぶれたという。数奇な出会いは風を呼び、ここに大陸を揺るがす戦いの宿命が始まる。


前回に続いて、今回紹介するのも王道ファンタジー長編。転生無しの異世界ファンタジーではあるが、能力やらヒロインがやたら多かったりと、割となろう要素は多め。ただストーリーになろう系のテンプレ要素はほぼ皆無。しっかりした骨組みを持つ正当派なストーリーです。

ただ、個人的に若干引っかかったのがキャラクター。この作品は主人公が2人いる。様々なモノを犠牲に強さを得た侍:カイと、全てを守らんとする騎士:クルスだ。

クルスの方は良かった。彼の理念には共感できるし、守るべきもののために努力する、完璧な主人公だった。しかし一方でカイのほうにはあまり感情移入が出来なかった。壮絶な過去を持ち、人生に達観していて、まるで人間らしくない彼の考えは全く理解できないという程ではないが、あまり共感できるものではなかった。それに準じて、カイに惹かれていく二人のメインヒロイン達の姿も、なんとなく一歩引いたところから読んでしまった。

そんなこともあってかあまりキャラクターに感情移入は出来なかったけれども、ストーリーは文句無しに面白かったので最後まで楽しく読めた。外伝の『XX話:最後の神話』を読み終わった瞬間は、確かな充足感にしばし放心してしまった。良い作品でした。




以下個人的感想。ネタバレ注意。

ギルドではムードメーカー的な立ち位置にいるイリスだが、本人はそれを役割として認識している。
---1章7話「共闘以来」

普段は明るく振る舞ってるけど、実際は……みたいな二面性を持ってるキャラクターが大好きなので最初はイリスがすごく好きだった。彼女はクルスとくっつくといいいなあなんて思いながら読んでいたので、彼女がカイに惹かれていく過程はちょっとモヤモヤしてしまったり。

隣で甲斐甲斐しく衣服を畳んでいたシオンが顔を挙げて首を傾げるが、何でもないとばかりに頭を撫でる。
(中略)
笑い合う二人の姿は親娘にも兄妹にも、あるいは恋人にもみえる。ただ暖かく、微笑ましい。
---3章14話「夏のはじまり」

クルスとシオンのペアが本当に好きだった。なんというかこの二人が作品唯一の癒しでした。二人でのんびり釣りをするシーンも良かったし、ドワーフの子供たちにもみくちゃにされる二人もめちゃ萌えでした。願わくば彼らの行く末をもっともっと読みたいものです。外伝更新されないかなあ…。

 

 刃金の翼
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そして少年は少女の騎士となる -『Rotted-S』

なろう備忘録第33弾。

あらすじ:
人には見えないものが見える異能を持った少年アージェは、ある晩村で起きた事件を切っ掛けに、忌まわしい思い出が残る森へと踏み入ることになる。そこから始まる彼自身の変遷は、一人の美しい少女と、また大陸に残る神話と、深く繋がっていた。主人公の少年期から青年期までを描く成長記。そして大陸を彩る戦乱と、神代の清算を記す物語。

 
なろうでは珍しい、転生無しの純正ファンタジー作品。卓越した文章力、作りこまれた舞台設定など、海外のジュブナイル小説を読んでいるような気持ちになった。

なろう系テンプレな享楽的な作品に耽るのも良いですが、時折こういう純粋で王道な長編ファンタジー作品をがっつり読みたくなる時があるんですよね。『ハリー・ポッター』『ダレン・シャン』『はてしない物語』などをワクワクしながら読んでいたあの頃の感覚を無意識に求めているのかもしれない。

その点この『Rotted-S』は本当に素晴らしかった。一人の少女のために騎士になる少年。半人前な少年が様々な経験を通して世界を知り、時には大人に諭されながらも、一歩ずつ成長していく過程。徐々に明らかにされていく神話時代の歪。私がずっと「こういう王道ファンタジー作品が読みたい」と思ってきた理想の作品が、ここにあった。

今回も色々となんやかんや雑記していこうと思います。※ネタバレ注意。


◆ 1. アージェ+レア

少年期のアージェについては、壮絶な過去によりある程度達観してはいるものの、やはり行動や言動にどこか幼さが感じられてあまり感情移入は出来なかった。小説を読むときは物語に没入して主人公の視点で追体験してしまいがちな人間なので、少年期の彼には割とモヤモヤさせられました。ただ嫌悪感みたいなのは無かった。等身大で良い主人公だと思います。

で、そのモヤモヤが顕著に現われたのが、彼が「俺はレアリアの騎士にはならない」と頑なにこだわり続けたところ。過去の経験から忌避感があるのは理解できたけど、でもやはりどこかピースが合わないような違和感は拭えなかった。

まるで並行する線の上を共に歩いていたような数ヶ月間。微温湯のような時は、彼女の目的が「騎士を探すこと」にあったのだと気づいた時に終わった。アージェは、自分が彼女にとって純粋な意味で友人ではなかったことを知ったのだ。
---Act3『石鏡 004』 


このへんは本当にもどかしかった。レアリアの本当の内心を知っている分、特に。なんでそうなっちゃうんだ…と半ば諦めながら嘆いた。でもこういうすれ違いや勘違いは物語において(ジュブナイルなら特に)必要なものだとも改めて思う。この辺のストーリーは特に強く惹きこまれて、時間を忘れて読み耽ってしまった。

なんというか上手く言葉にできないんですが、こういう読者にモヤモヤした感情(若干のストレス)を与えるのは結構重要なことだと思うんです。最近のなろう小説は何かと読者にストレスを与えると思われるものを排除しがちだけど、そういう小説はどこか物足りなくて刺激に乏しい気がする。しかしまあ難しいことだとも思います。

恋愛要素を例に挙げてみると、メインヒロインと主人公を容易にくっつけないようにするとか。やはりじれったいモヤモヤは感じるのですが、満足を求めて続きを読みたいと思い、それは読者を作品に惹きつける一要素となる訳で。というか数年前のライトノベルは殆んどこんな感じだったような気がします。いつの間にやら界隈はチョロインだらけになってしまいましたが。

閑話休題

物語は進み、主人公はレアリアの過去を知り、彼女がおかれている状況、彼女が実際にどういう扱いを受けているのかを知って、自分の思いに葛藤して気持ちが揺らぎ始める訳ですが、しかし過去の苦い思い出から「騎士」という存在に嫌悪感を抱く彼は結論を出せずにいた。

ここでの主人公に対するエヴェンの言葉が刺さるのだ。

「そうかもな。俺のこれは、多分甘えだ。俺は恵まれて育ってるからな。ただな、お前のそれも甘えなんだよ。一を見て十が嫌だと駄々をこねてる。自分は違うものになろうと何故思わない? 少なくとも、陛下が今、窮屈な思いをなさってるのはお前が甘えたガキでいるせいだ」
---Act3『二と一 001』

私の言いたいことをそのまま代弁してくれたように感じる。こういう風に主人公の背中を押してくれるキャラクターがいる作品が好きです。 

そして主人公は少女の本心を知り、彼女の騎士となるのですが不遇期間が長かったのもありその感動はひとしおだった。ストーリーの6割を費やして、満を持してのこの展開。やっと綺麗にピースがはまったような気持ち良い爽快感を味わいました。ここでのレアリアの反応がまた良くて。

レアリアはただ今だけは、声を上げて泣きたいと思った。
---Act3『二と一 004』

この泣きたくてたまらないのに我慢してそれに耐えるところに、彼女の女皇としての強さが垣間見えて、とても良かった。ここのアージェとレアリアの問答はもう何回も読み直した。不遇っ子が報われるシーンは良いものです。

その後の2人の関係性がまた素晴らしい。女皇と騎士という、対等な立場というと語弊があるかもしれませんが、守る守られるの一方的な擁護ではなく、共に助け合い支え合う関係性といいますか。その間にあるのが恋愛感情じゃなくて親愛感情なのも良い。

またそれがポーズだとしても、ヒロインに仕える主人公という構図が思ったより良かった。なんというかアージェがレアに敬語で話すのが、これまでのギャップも相まってめちゃくちゃ萌え転げた。至る所で主人を大切にしている想いが見られて、この辺りからの主人公はもう本当に格好良くてとても好きです。

本編はシリアス一辺倒でしたが、幕間や後日談の彼らの甘々なバカップルな感じもとても癒された。レアリアが他の男に頭を撫でられているところを見て、思いっきり嫉妬しているアージェがなんというか人間らしくて微笑ましかった。

そして後日談最後のエピソードである『幸 (100題4・1996年)』が本当に、素晴らしかった。死期を悟ったレアリアがケレスメンティアから出てからアージェと共に歩んできた人生を顧みて、彼に感謝を告げる場面。涙が止まらなかった。彼らの軌跡を思い、自分でも引くくらいに泣いてしまった。「ああ、自分はこんなにも彼らのことが好きだったのだな」と改めて実感したように思う。本当に良かった。


◆ 2. ミルザ

「兄はディアドだ。もし迷ったらそれを思い出せ。ディアドは他の騎士とは違う。ただ一人の為の戦士だ。―――― 他を捨てようともその御手だけを掴めればいい
---Act5『天高く謳う 002』


何気に彼女が作中で一番好きなキャラクターかもしれない。初登場時はなんだか元気な子だなあくらいの印象しか抱かなかったのですが、アージェが騎士になった後の「兄!」と何かと世話を焼こうとする彼女がかわいくて(この呼び方とても好き)、だんだんと好きになっていった。態度のでかさの割に小柄で華奢なのも萌えます。

だからこそあの最期はかなり胸に来た。薄々彼女は退場する側の人間なんだろうなとは思っていましたが、それでもやはり辛かった。

欲しいと切望した時間が得られた。
それは彼女が想起した後悔を拭う為の時間で、けれど無事、目的を果たすことが出来た。兄を助け、優しくしたかったのだ。それは他者から見れば大して変化のないことなのだろうが、彼女にとっては精一杯だった。
---Act5『天高く謳う 002』

今際の際に彼女が零したこの独白が、もう本当に切なくて、心に刺さる。最後に交わした兄との会話が、彼女にとって少しでも救いになっていたことを望みます。




以上、個人的感想垂れ流しでした。
改めて、本当に良い作品でした。掛け値無しに、なろうファンタジーの中でも最高峰の作品だと思います。

ああ、この作品に出会えて良かった。

 Rotted-S
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海外のベストレビューを翻訳する -『中二病でも恋がしたい!』

今回は意訳多めです。
各アニメの海外で最も支持されているレビューを翻訳する。

原文はコチラ。(MyAnimeListより)


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Dec 28, 2012
12 of 12 episodes seen
Overall Rating: 7
821 people found this review helpful

成長するということは簡単なことでは無く、その過程を振り返るたびに恥ずかしくなったり後悔したりすることは常である。真に『大人になる』ということを示すのはなんだろう。独立して生きていける能力、あるいは社会規範への順応であろうか。子供のような好奇心を持ち続けている人は、成長していないのだろうか。おそらくそれは間違っているが、まあ何とも言えないことである。

日本のインターネット文化では奇妙な言葉が使われている。"中二病" すなわち "Eighth Grade Syndrome" という言葉は、傍から見ると不自然なキャラクターを演じる人物を指す*1。子供の頃に魅力的なTVキャラクターを見つけたとき、彼らのようになりきって遊んだ覚えが無いだろうか。

"中二病" は10代の学生がそれを行うことで、しかしその影響は架空の人格がライフスタイル全体を定義してしまう程である。公共の場でそのような行動をすることは恥ずかしいことであるが、また素面に戻ったときにその行動を思い返すことはさらに恥ずかしい。

ああ、哀れなり Yuuta。

「ダーク・フレイム・マスター」として過ごした中学時代を深く後悔した彼は、心機一転して高校生活を普通の学生として過ごすことに決めた。彼は完全に過去を断ち切るために中学時代の同級生がいない高校に入学した。その計画は成功すると思われた……奇抜な服装をした美しい少女が彼のベランダに現れるまでは。

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Takanashi RIkka という名の少女は現在進行形の中二病だった。そして悪いことに、彼女は最近同じアパートに越してきていて、ベランダで Yuuta が「ダーク・フレイム・マスター」として振る舞っているところを目撃されていた。そう簡単に過去から脱却できるはずがなかった。

結果的に、彼は不本意ながら Rikka の興味を惹いてしまい、新しい高校で普通に過ごすための彼の計画は、毎日のようにちょっかいをかけてくる Rikka の存在によって頓挫せざるをえなくなった。しかし彼はどっちみち中二病を忘れることは出来なかった。なぜならば、彼らが出会うことは、Rikka の「Wicked Eye」によって示されていた運命であったからだ。……おそらく、多分。

『Chuunibyou demo Koi ga Shitai』、略して『Chuu2-Byo』。このタイトルが彼ら二人の関係を強調していることは明らかである。Yuuta と Rikka の2人がこの作品の柱であり、彼らの交流は見ていてとても楽しく、愛らしい。Yuuta と遊びたいがために色々とちょっかいをかける Rikka であったり、気分が落ち込んだ Rikka を励ますために封印していたはずの「ダーク・フレイム・マスター」の仮面を取り出す Yuuta であったり。

魅力的なキャラクター達が幼少時代を連想させる馬鹿げた行動をするのを見るのは、時に懐かしさを感るが、やはり些か恥ずかしい気持ちになる。しかしそれらを可愛らしいキャラクターに演じさせることで上手いこと昇華させている。見事な設定だと思う。『Chuu2-Byo』は可愛さという要素においては完璧で、全く隙が無いと言ってよい。

それぞれ明確な役割を持っているサブキャラクター達もこの作品の魅力を底上げしている。Rikka に忠誠を尽くす中等部の現役中二病な少女 Sanae Dekomori、睡眠をなによりも愛する先輩 Kumin、主人公の男友達の Isshiki。

そしてその中でも最も重要なキャラクターが Nibutani Shinka だ。当初は作中で唯一の常識人だとされていた彼女であるが、実のところ中学時代の彼女はドがつくほどの中二病であった。Yuuta はその事実を知ってしまうのだが、その後の親切さを投げ捨てて何が何でも口止めさせようとする必死な彼女が面白い。

しかし Rikka が Yuuta への気持ちを自覚するようになると、Nibutani の世話焼きで慈悲深い性格の一面が現れてくる。じれじれな関係の二人の背中を押したり、ある時は忌まわしき中二病時代のペルソナを用いてまで、彼らの恋路を応援する。

作品の見た目による第一印象がミスリードを誘ってしまうのはよくあることであり、この作品はその典型例と言える。中二病な少女たちの織り成す日常劇に思われがちなこの作品の実態は、れっきとしたラブストーリーであるのだ。前半のエピソードこそコメディが多めであるが、後半に差し掛かると Rikka の Yuuta への想いに焦点が当てられていく。Rikka にとって"愛情"は全く慣れ親しんでいない感情であり、その混乱のさなか、少女としての人格と中二病としての人格がせめぎあい、彼女は何とかして中二病側の人格を用いて照れや恥ずかしさを隠そうとする。

この自らの内にある愛情を認識して、その感情が積もりに積もっていく過程が、他の何よりも魅力的であった。

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しかし彼らの間に起こるロマンスは些か拍子抜けであり、思わず感動してしまうようなドラマはなかった。ここにこの作品の欠点がある。『とらドラ』や『あの花』にあるような、恋愛モノになければならない、作品を盛り上げるドラマが足りなかった。アニメ作品で過度なドラマを描こうとするのがそもそも間違っているのだろうか?いや、そんなことはないはずだ。

しかし、この作品には後半の恋愛ストーリーで本格的なドラマを描けない理由があった。その原因はシリーズ前半をコメディ多めで描いてしまったことにある。突然シリアスなドラマが始まり、雰囲気を全く別のものにしてしまったら、当然視聴者は困惑してしまう。この方向転換が非常に困難だったため、後半の恋愛ストーリーがやや物足りなく中途半端なモノになってしまった。

これは出口の見えない問題である。ドラマのクオリティを犠牲にすることで、たしかにYuuta と Rikka の恋物語は自然に見ることができたし、コメディ調から恋愛系にシフトしていく過程も殆ど違和感は無かった。ドラマチックな瞬間もいくらか描かれている。しかしそうなってくると少しくらいは後半にもコメディ要素を入れても良かったかもしれない。アニメ前半の明快なキャラクター達のやりとりはとても面白かったので、後半そのようなやりとりが見れないのはやや残念だった。

さて、この作品の魅力をもう1つ挙げておこう。それは、京アニの豪華な作画クオリティがキャラクターの感情表現をより良いものにしていることだ。可愛いデザインのキャラクターを最高峰のアニメーション技術で描いている。特にファンタジー空間における戦闘アニメーションのレベルは驚くべきものである。因みに私のお気に入り作画ポイントは、Yuuta と Rikka が橋の下で静かに寄り添う背景で、街の光、川面にちらつく明かりが灯っているシーンだ。

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『Chuu2-Byo』が良い作品であることは確かであり、おそらく貴方は私より後半のラブロマンスを楽しめるだろうし、途中で作品の雰囲気が変わることもあまり気にならないだろうと思う。

しかし、私がこの作品を本当に心温まる話に、非常に楽しいエピソード、過去数年間の中でも最高にロマンチックなカップルがいる完璧な傑作だと評するとなると、おそらく貴方は首を傾げてしまうことだろう。



おまけ:海外の「中二病」を題材にしたMAD作品


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*1:このへんの翻訳はちょっと怪しいです

タイトル詐欺とはかくあるべし -『ちん☆みこ ~私はちんこに仕える巫女になりました~』

なろう備忘録第32弾。

あらすじ:
ある日、大学生の『私』のちんこが『神』になっていた。そしてちんこを失った私の体は神の恩情によって、私が理想とする黒髪の乙女へと変えられていた。
だがしかし、私は私のちんこで嬉し恥ずかしのエッチなことをしたい!! 
私は私のちんこと合体を果たし、再び男の姿を取り戻すため、ちんこの下で巫女として修業することになる。これはそんな黒髪の乙女となった童貞をこじらせた『私』と紳士的な『神』との物語である。

 
ラノベ界隈では長々とした説明調なタイトルでどうにかして読者の気を惹こうとする作品が増えてきている昨今ですが、ついにここまで来たかという感じです。

『表紙で本の価値を判断してはならない』なんて英語のことわざがありますが、それにしてもこのタイトルは凄い。実際に中身を読んでみたら分かるんですが、割と作品の雰囲気を如実に表したタイトルで、なんというか一本とられた感があった。

内容は『コメディ×TSモノ』って感じです。阿呆な大学生達を、格式高い文章で描いている。その文体や舞台設定などから森見登美彦氏を彷彿とさせられたが、どうやら実際に氏をリスペクトしているらしい。『四畳半神話大系』とか『夜は短し』とほぼ同じ雰囲気なので、それらの作品のファンの方は絶対楽しめると思う。

最初はコメディ調だったこともあってTS要素は軽めなのかな、なんて思ってましたが、後半は性転換による心情の変化や葛藤などが丁寧に描かれていて良かったです。作中では魑魅魍魎とまで称されているサブキャラクター達も皆個性豊かでとても魅力的だった。

とりあえず騙されたと思って1話だけでも読んでみてほしい。
あ、タイトルはアレですが中身はとても健全な物語なのでご安心を。

 ちん☆みこ ~私はちんこに仕える巫女になりました~

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