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好きな作品を発信していきたいブログ

君想うこの心は、きっと花を巡る -『鬼人幻燈抄』

なろう備忘録第43弾。

『人よ、何故刀を振るう』

鬼に成れど人の心は捨て切れず。
江戸、明治、大正、昭和、平成。
途方もない時間を旅する、人と鬼の間で揺れる鬼人の物語。


『お前達は長くを生きる。いつか、失くしたものの重さに足を止める日も来るだろう。昔を思い出しては悲しくなって、何もかもが嫌になることだってあるさ』

『だけどお前達には、泣きたいときに泣いて、それ以外は誰かの隣で笑って。長くを生きるからこそ誰よりも“今”を大切に生きて欲しい』

『俺は、そう在ってほしいと思う』

-----『去りてより此の方、いつかの庭』・3より抜粋




210万文字完結。
惨劇の果てに鬼に成り果てた主人公が、長い長い時を旅する物語。最愛の人を殺した実妹への憎悪に囚われながら、それでも妹への情は捨てきれず。自分はどうしたらいいのか。この感情をどう昇華させたらいいのか。長い旅の中で彼は自分と向き合っていく。

この作品の世界観は和風ファンタジー。舞台は現世、作中の出来事も史実に基づいている。しかし主人公は鬼となるし、怪異は身近に存在している、そんな世界の物語。

流麗な文体。巧緻な情景描写。心に染み入る言葉選び。一つ一つの章として完成されたストーリー。強くて弱い等身大な主人公。一本芯が通った魅力溢れるキャラクター達。こうやって言葉に表してみるとどうしても月並みな表現になってしまいますが、それでもやはりこう書かずにはいられない。

今のところ、今年度読んだなろう作品の中で一番面白かった。掛け値無しに。というわけで以下感想垂れ流しです。一応ネタバレには気を付けますが、この作品は伏線回収が真価みたいなところありますし、未読の方はご注意を…。

鬼人幻燈抄

 



『別離と再会』について。

主人公は長い時を生きる鬼。具体的には約1000年。そんな長い時を旅していれば、いつか別れた人物にひょんなところで再会することがある。自分はこの『再会』というシーンが本当に好きでして。

離れ離れになってしまった主人公とヒロインが互いに『会いたい』と願い、互いに相手を探して、そして満を持して再会する。こんな王道の展開も大好きなのですが、この作品で描かれる『再会』はそれとは少し趣が違う。

それは例えば、甘味処の看板娘と五十年近くの時を経ての再会だったり。また相手が鬼だった時などは百年以上の時を経ての再会というのもある。この作品はテキスト量が膨大なので、初期の登場人物はどうしてもうろ覚えになってしまったりする。そんな忘れかけた頃に懐かしいキャラクターを再登場させてくるのだ。その瞬間の「ああ、あの時の!」という感覚が堪らない。

勿論王道な再会パターンもこの作品は欠かしていない。旅の中で様々な出来事に巻き込まれる中で、主人公には大切な人が出来る。花を愛する、一人の鬼娘。彼、彼女は共に一緒に生きていきたいと思うが、自分の生き方を曲げることができない彼と、このまま貴方に寄り掛かっては私は変われないままだと葛藤する彼女が相容れることは無く、二人の道は分かたれる。

個人的にここの別離シーンはかなりキツかった覚えがある。最後まで読了した今でも一番好きなヒロインは彼女だったので。それでもいつか再会するだろうと思って読み進めるが、中々そのシーンは訪れない。時折主人公の回想シーンに出てくるくらいで、あれ、これもう彼女が登場することは無いんだろうかと気落ちしていたあたりでの。待ちに待った。満を持しての。もう快哉を叫びましたとも。

そしてその時の描写が本当に最高で。彼女の元に向かう道中の描写が本当に。伝えたいことがたくさんあって、はやく会いたいとついつい浮足立ってしまったり。そしてこの再会シーンの素晴らしさは実際に読んでみてほしいとしか言えない。もう言葉では言い表せない。締めの文章を読んだとき、私は心の底からこの作品を読んで良かったと思った。

そっと離れた想いもまた、歳月を経て寄り添う。
だから、花が季節を巡るように。
君想うこの心は、きっと花を巡る。
-----『過ぎ去りし日々に咲く花の』より抜粋

 

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和風ファンタジーという世界観 -『鬼神純情伝!』

なろう備忘録第42弾。

あらすじ:
平凡な生活を送っていた少年は、世を揺るがす大騒動に巻き込まれる。
はてさてこの少年は、調伏されし鬼を従え、救国の英雄と相成るか。
悪鬼羅刹より転生し、式神となったこの鬼は、護国の鬼神と相成るか。
強力無比な恋敵を前にして、桜花咲く純情可憐な恋心の行方は何処。

 

「人の温かさを、情を知った獣は、野生では生きられぬ……」
「だが――情を知らぬ獣は、涙を零すまい」
-----第30話『最期ノ災厄・急 - 弐』より

 


 

約20万文字完結。
ひょんなことから世にも恐ろしき千年悪鬼が純和風美少女に転生してしまう。そんな彼女が冷静沈着で豪胆(に見えるように演技している)主人公と『3つの災厄』に立ち向かうお話。

『あまた人を喰らいし稀代の鬼は、容姿可憐なおにゃのこにならん』
-----星村哲生氏のレビュータイトルより

 
そしてヒロインになってしまった千年悪鬼ちゃんがギャップ萌えの権化みたいなキャラでしてそれがまあ可愛いこと可愛いこと。中盤からは千年妖狐も加わってダブルヒロイン体制になるのですが、もう彼女らの愛くるしさにノックアウトされること間違いなしでしょう。

そしてこの作品の最大の魅力が徹底して描かれる『和』の世界観。
まるで歴史モノのような硬派な雰囲気ながら、流れるように洗練された文体。時代錯誤なメインキャラ達の口調も上手く作品と調和している。

平成の現代を舞台に、そしてファンタジーという相容れなさそうな要素を含みながらも、この作品の雰囲気は徹頭徹尾『和』なのである。それでいて可愛らしいヒロインを据えることでライトノベル的な要素も兼ね備えて、固くなりすぎないところも良かったです。

和風ファンタジー、これから暫くはハマってしまいそうだ。

 鬼神純情伝!

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周回の果てに -『リライト・ライト・ラスト・トライ』

なろう備忘録第41弾。

あらすじ:
神獣の守護人は、異世界からやって来る。
守護人の護衛官を務めることになった青年トウイ。そして選ばれた少女・椎名。彼女の願いは、故郷への帰還ではなく、世界の安寧でもなかった。
──「望むものは、たったひとつ」

 
わたしは愚かで、最低だ。
何度も何度も、誤った選択をして、道を間違え、人を見捨てる。
-----第8章『浅い眠り』


正しい道を見つけて、掴んでみせる、必ず。
何を代償にしても。
-----第2章『はじまりの時』


 
90万文字。ただ一人の少年を守るためにループを繰り返した少女のラスト・トライを描く異世界ファンタジー。基本的に描かれるのは最後の周回のみ。

この作品の特徴は『ループ能力』の負の要素を惜しむことなく前面に押し出しているところにあると思う。自分だけ過去をやり直すというズルをしている自覚からくる罪悪感。ただ一人を助けるためだけにループを行い、助けることが出来たであろう他人を見殺しにしなくてはならないという葛藤。

心を殺し、ただただ淡々と繰り返しているつもりでも、回を重ねるごとに少しずつ積み重なっていく狂気。そして、何度ループを繰り返したとしても『最初に私を助けてくれたあの少年』を救うことはできないという事実。

トーリーもまあ全体的にシリアスで暗めですが、主人公の周りにいる人々はクセが強いけど良い人ばかりで上手いこと緩和剤になっています。また一応ボーイミーツガールものに分類される作品だと思うので、ずーっと友達以上恋人未満って感じな彼らの恋愛模様(?)をニヤニヤしながら眺めるのも良い癒しになると思います。

人はどんどん死んでいきますし、けったくそわるい神獣の煽り言葉にイライラしたりと、主人公の心だけではなく読者の心までも折ってくるような作品ですが、トーリーは間違いなく面白かったのでページを捲る手は止まらなかった。いやあ、良い作品でした。

 リライト・ライト・ラスト・トライ
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幸せで溺死してしまう


今冬に『インスタント・メサイア』書籍化決定!!!

半年ぶりに『幻想再帰のアリュージョニスト』更新!!!

月初めにラピスの心臓の更新が再開されただけで幸せマックス状態だったのに、もうなんか嬉しいことが起きすぎて頭が爆発しそうです。あああ~~幸せで溺死する。

もしこれでウロボロスレコードの更新も再開されたら気絶してしまうかもしれない。


インスタント・メサイア
幻想再帰のアリュージョニスト

 


罪悪感とその救済 -『宿屋主人乃気苦労日記』

なろう備忘録第40弾。

あらすじ:
個性あふれる従業員たちの、重なり合う事情や思惑。和洋の魔術が入り乱れ、剣戟と拳が鎬を削る戦い。そんなさまざまな問題に立ち向かう主人は、そのたびに頭と体を酷使し、なおも前に進んでいく……だが一番の問題は、客の少なさである。 
――それは不思議な宿屋主人の、日々徒然なる気苦労日記。

 

「誰も傷つけたくない、とは言うがね、それはどうやっても上手くいきっこないのだよ姫さん。人間、誰しも誰かに迷惑をかけ、傷つけあって生きている。だからと言って動くことを止めれば、周りの人々はそれを気遣きづかって、やはり心が傷つく」

「誰かとつながりを持ったら誰だって責任を持つのさ。それは逃れる必要のない責任だがね。誰だって持っているのだから、それぞれがそれぞれに少しずつ働きかけて、互いに併あわせ持てば良い」

-----十七頁目『押し潰されそうな、自己の罪。(自己不信)』



60万字完結。中編ファンタジー。
様々な闇を抱えた訳アリな従業員達が、生きにくい世の中で、共に支え合い、時には傷付け合いながら、それでも懸命に前を向こうと、生きていこうと頑張る物語。

作品の主題は『何のために生きるのか』であろうか。まあ勿論この問いに普遍的な答えは無い訳で、実際に描かれる登場人物たちの出す答えも若干似てはいるが、皆違うもので。その過程の心理描写は見事であり、この物語の登場人物には確かな芯が存在する。

主にこの作品のストーリーの起点になるのは『罪悪感』、または『復讐心』である。自分が嫌いで、大嫌いで、罪悪感に押しつぶされそうになる彼女。復讐心でしか心の安寧が保たれなくなってしまった彼。救いが与えられる者もいるが、救いも無しに死んでいく者もいる。割と残酷なストーリーではあるが、それはある意味正しいもので。

物語構成の点ではやや荒削りに感じるところもあったけれども、登場人物の人となり、そして彼らの"言葉"が良いのだ。間違いなく良い作品であったと、そう感じます。

 宿屋主人乃気苦労日記。
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ライトな純愛ホラー -『名前のない怪物』

なろう備忘録第39弾。

あらすじ: 深夜。部屋に響く物音で目を覚ました僕は恐ろしい〝脚〟に遭遇する。以来、姿を見せずに部屋で存在だけを主張するそいつは、まるで包囲網でも敷くかのように日常を侵食し、遂に僕の目の前に姿を現した。その正体は、あまりにも美しい、『名前のない怪物』だった。

 
僕はその怪物に恐怖し、魅了され、そして捕らえられた――。
-----第6話『囚われの夜』

「何処に行くの?」
「何処だって行けるさ。さぁ、一緒に行こうか。名前のない怪物よ」
-----最終話『永い前日譚の行方』



『恐怖と謎とエロスが融合した、サスペンスホラー』と銘打たれた純愛モノ。
本編50万字完結。現在続章連載中。第五回ネット小説大賞を受賞したとか何とか。

「恋愛」「能力バトル」「SF」「コメディ」「アクション」とりあえず全部突っ込んじまえ!みたいな感じが『なろう』っぽくて好きです。色々な要素を詰め込みすぎて全体的にとっ散らかっている印象を受けてしまったけども、まあ実際読んでて面白かったです。ホラーってよりかは『未知との遭遇』って感じでしたが。或いは異類婚姻譚だろうか。

敵サイドの登場人物の大半が腹の中にどす黒いモノを持っている狂人なので、読むのキツいなあって場面は多々あった。ただ、主人公と怪物ちゃんのイチャコラが清涼剤としてそれらの不快感を打ち消してくれるので、上手いこと作ってあると思いました。

つまりは黒スト装備の名前のない怪物ちゃんが最高に可愛いってことです。

面白い作品ですよ。是非是非。

 名前のない怪物

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宇宙人×ボーイミーツガール -『銀河の生きもの係』

なろう備忘録第38弾。

あらすじ: ある日突然、史緒の前に現れた転校生・高遠洸。顔良し、頭良し、スポーツ万能。でも、宇宙からの侵略者(自称)。ほとんど事件の起きない、けれどどこか不思議で不条理な日常の話。


「それがまさに、運命、というやつじゃないか」
-----第2話『運命の扉はスチール製』

 「だってさ、塚原さんは、僕の、召使みたいなもんだから」
史緒はその場にひっくり返りそうになった。
-----第11話『五年三組学級会の功罪』



27万文字完結。SF風味なボーイミーツガールもの。
SF風味といってもメインキャラの少年が宇宙人っていう設定以外にSF要素は殆ど無いです。

トーリーはTHE・少女漫画って感じの王道。テンプレって意味では無く、誰でも楽しめるという意味での王道です。小→中→高とダレることなくテンポ良く進んでいくので心地良い。文章も読みやすかった。

割と登場人物は多いですが、あくまで焦点は二人にあてられている。その価値観が違いすぎる二人が、ぎゃーぎゃーと喧嘩しながらも少しずつ距離を縮めていく過程が良いです。やれやれ系の女主人公が気づかぬうちに彼に絆されていくのが最高でした。

多作な作家さんなので他の作品も読んでみよう。

 銀河の生きもの係
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