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海外のベストレビューを翻訳する -『氷菓』

各アニメのベストレビューを翻訳する。
原文はコチラ。(MyAnimeListより)


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Sep 16, 2012
Overall Rating: 8
948 people found this review helpful

Review『Hyouka

「やらなくていいことはやらない。 やらなければならないことは手短に」

多くの人にとって、高校で過ごした数年間は人生の転換点であり、最も華やかな時であったのだろうと思う。その時間は変化や内省に満ちており、そこではいくらかの夢が生まれ、また終わった夢もあったはずだ。

一方でそのような考え方を拒否して安全地帯から離れようとせずに、できるだけ平和に日常を過ごしたという人も存在するだろう。おそらく彼らはこう思うのだ。なぜそんな些細なことにエネルギーを消費するのだろうか、と。

Oreki Houtarou もそんな考えを持つ人間の一人であった。

 

氷菓 感想

 

Oreki の高校初年度の生活は灰色でつまらないものであったのだが、高校2年の春に Oreki が古典部に入部するという重要な出来事によって物語は幕を開ける。

彼は自発的に入部したのではなく、それは義務に従ってのことだった。「部員不足で解散の危機にある古典部に入ってほしい」と姉から依頼の手紙を受け取った彼は厳粛にその任務を受け入れ、部登録の用紙を提出する。その行動は彼の親友の Satoshi にとって非常に驚くべきことであった。勉強、運動、そして声を出すことにすら無関心な人間にとって部活に入るということは困難で苦しい試練になる可能性がある。しかし、もし廃部寸前の部活に入部するような奇特な女の子がいなかったら、Oreki は平和な日常生活を維持することができたのである。

だが、変化というのは必ずしも悪いこととは限らない。

他人を変えてしまうような魅力をもつ Chitanda Eru は Oreki とは全く対照的な行動をとる。そして Chitanda は Oreki を古典部に関わる謎に巻き込んでいき、彼女は目をキラキラとさせながら彼に伝えるのだ。『I can't stop thinking about it!(わたし、気になります!)』

 

氷菓 感想

 

この作品で扱われるミステリーの題材は殆どが『bread and butter(日常的なモノ)』から形成されている。嬉しいことにそれらは本当に多種多様で面白い。『鍵をかけられた部屋』『温泉旅行中に出没する幽霊』『放課後、ある学生が突然呼び出しをくらった理由』などなど。エピソードのいくつかは1話で独立した物語であるが、この作品は大まかに3つの章で構成されており、それらの物語の中で登場人物たちは成長していく。

当初は物語の形式がかなり軽快なもののように感じるが、物語が進んでいくにつれてそれは徐々に真剣でドラマチックなものに変化していく。この対比には非常にワクワクさせられ、また古典的で古臭いと感じさせない。

しかし残念なことに、この抑揚の変化に伴う一つの問題が浮上してしまう。出来事に対する過度に誇張された反応が、物語を安っぽくしてしまうことがあるのだ。Chitanda は部室の本が無くなっただけで世界の終わりのような顔をして狼狽えてしまい、Oreki も上級生に少し命令されただけでそいつを殺すような冷えた目で睨んでしまう。また古典部員たちが非常に単純な謎を解決する Oreki のことを明晰な人物であると扱っていることもそうだ。日常的で軽いミステリーを扱っていることを考えると、この過剰すぎる反応はシリーズ全体の雰囲気とどこか矛盾していると思えてしまう。

またミステリー要素の中にも欠陥が存在している。それは主にミステリー方面に詳しい人はその内容に飽きてしまったり、また失望してしまう可能性が高いだろうということだ。特に1話完結の話で扱われるミステリーの内容はいささか些細で子供っぽいものであり、何はなくとも少しの好奇心が満たされる程度のものである。それらのミステリーには魅力的になるために必要な深さが無く、他のミステリー小説と比べてしまうと少々見劣りしてしまう。悪いという程ではないが、ほとんどが平凡であり、ミステリーという題材だけではこの作品は成り立たないと言っても良いだろう。

しかし、この作品の持つ真の魅力は、登場人物の人柄と、互いの関係性にある。

 

氷菓 感想

 

ホームズとワトソンの関係のように、氷菓の主要な登場人物3人はそれぞれ古典部において特定の役割を負っている。Chitanda がミステリーを引き寄せて、Satoshi が情報を提供し、Oreki が推理する。初期のエピソードではこのような役割が定式化されているという印象を受けるかもしれないが、この登場人物たちはすぐに型から外れて、役割とは関連しない行動を開始しだす。例えば Oreki が自分から謎を引き寄せてきたり、ある特定のケースでは Satoshi が推論を試みることもある。驚異的な結論を導くある1つのエピソードでは、とある主要な登場人物が犯人になってしまうこともあるのだ。

彼らの自然な交流によって、私たちは彼らをステレオタイプなキャラクターではなく自然な人間として見ることができる。Chitanda の偏見的な好奇心がコメディ効果のためにしばしば誇張されることはあるが。彼らは本当に幅広い感情を見せてくれるのだ。落ち込んだり、怒ったり、互いに冗談を言い合ったり、批判しあったり。その中でも一際輝くのが Oreki と Chitanda の関係だろう。綺麗に対比的な行動をとる彼らの様子は楽しく、Oreki が Chitanda の気まぐれな行動に赤面して反応するシーンなどは本当に愛らしくて面白い。

彼らがそれぞれ顕著な特徴を持つキャラクターでなかったら、この作品はそもそも面白いものにはならなかっただろう。主要な登場人物たちがストーリーを通して見せてくれる成長の過程には、作家の才能を感じずにはいられない。彼らは成長を通してより生き生きとした深みのある人物になっていく。この成長の大部分は、主人公であるOreki に焦点が当てられている。彼の退屈で灰色だった生活は、ゆっくりと色とりどりで鮮明なものに変化していく。

 

氷菓 感想

 

「やらなくていいことはやらない」と必要ないものにエネルギーを費やすことを躊躇う Oreki を Chitanda は何度も何度も引っ張っていく。なんだかんだで古典部で Chitanda と楽しい時間を過ごした Oreki は、こんな学校生活も悪くないと思い始める。そして彼は Chitanda が促さずとも、自分から好奇心をもってミステリーを追求し始める。エネルギーの節約に努めていた彼の行動の変化を、他の古典部員が注目するのは当然のことである。

もちろん変化は Oreki にのみ起こったわけではない。他の古典部員にも様々な度合いであるがそれぞれ変化が生じている。Satoshi は Oreki と比較して自分の能力が欠如していることに不満を持つようになる。いくつかのエピソードで Satoshi は Oreki のように推理を試みるが、その努力は失敗に終わる。彼の例の決まり文句も、その実嫉妬の現れなのかもしれない。しかし、ある1つの物語が Satoshi の性格に良い変化をもたらし、一皮むけた彼は明らかに初期のエピソードよりも気持ちの良い人物となっている。そして第21話(手作りチョコレート事件)のエピソードは Satoshi に自分自身の変化を理解させ、そして新たなライフスタイルを促した。

Mayaka もまた、漫画同好会における彼女の立ち位置や部員との関係において悩み苦しむことになるのだが、このサイドストーリーの結果はとても満足のいくものであった。一方で Chitanda の変化は非常に小さいものであるけれども、それはおそらく最高のものであろうと思う。Chitanda は Oreki の変化と成長の触媒として、ストーリーの中で必要かつ重要な役割を果たしている。もし Chitanda がいなかったら、Oreki はどうなっていたであろうか。

そして誰しもがこの作品について同意できることがある。それは『Kyoto Animation』が本当に素晴らしい映像を作ってくれたということだ。

作品全体の雰囲気は卓越した照明技術による非常に現実的な世界に支えられている。時には抽象的で非現実的な世界も描かれる。Oreki の思考時の視覚的要素は、ミステリーをより明確にするだけでなく、単にキャラクターに喋らせるより遥かに没入感のある体験を私たちに提供してくれる。いくつかのシーンは夢のような品質を持っていて、それは例えば第1話の Chitanda が Oreki を魅惑することに成功した最初の瞬間であったり、第6話の小さい複数の Chitandas が Oreki に這い寄ってくるシーンであったり。現実的と抽象的の二項対立がこの作品の映像を非常にユニークにしている。

 

氷菓 感想


根本的なアニメーション技術も驚異的である。『KyoAni』は長い間アニメーションの基準として賞賛されてきたが、この作品はさらなる評価を受けるべきだと思うのだ。全てのエピソードを通して、この作品は映画のような品質を保っているのである。よくキャラクターの自然な動作が評判になっているが、私は特に「目と表情」が素晴らしいと思った。氷菓のキャラクターは本当に分かりやすい表情をしてくれる。

そしてサブキャラクターや、さらには誰も見ないようなモブキャラクターにさえ、魅力的なデザインを与えて細かく描いてしまうのだ。『KyoAni』が22のエピソードすべてにおいてこの品質を維持できたことは、驚愕に値する。

そしてこの作品の伴奏音楽は、美麗な作画に負けないほど雄弁でそれでいて非常に作風にマッチしている。主に古典的なメロディーで構成されているそれは、作品に内在している魅力を上手い具合に引き出してくれる。これらの曲はミステリーな雰囲気を完全に捉えていて、的外れに思うことは全くないだろうと保証する。

広範囲に広まっている考えで、評価されるべき作品に必要なのは「行動的な主人公」と「奥深いストーリー」というものがあるが、この『氷菓』という作品はその考えを完全に反証することができるだろう。

多くの人々がこの作品について「ミステリーの面において失望したので駄作である」と評しているのは少し残念に感じる。確かに氷菓という作品は些かミステリー要素に欠ける面があり、その点では改善の余地があるように思われるが、しかしそれを補って余りあるほどの魅力が存在する。また、この作品をミステリーものと厳密に定めることにも語弊があると思われる。ある程度のミステリー要素が含まれているのは事実だが、しかしこの作品の本質はキャラクターの成長と彼らの関係性にあると思うのだ。氷菓は極めて日常的なミステリー作品であり、意外と「青春ラブコメ」作品を探している人にこそ、この作品を薦めるべきなのかもしれない。



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