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至高の愛はヤンデレにならざるを得ない - 書評『黒の魔王』

なろう備忘録第30弾。

あらすじ:黒乃真央は悪い目つきを気にする男子高校生。彼女はいないがそれなりに友人にも恵まれ平和な高校生活を謳歌していた。しかしある日突然、何の前触れも無く黒乃は所属する文芸部の部室で謎の頭痛に襲われ気絶。次に目覚めた時には……。剣と魔法、モンスターの闊歩するオーソドックスな異世界召喚モノ!


350万文字超のド長編異世界ダークファンタジー。
未だ連載中のこの作品ですが、完結を待たずして我慢が出来なくなり読んでしまった。全体の感想としては「気になる点は多々あるが、作者さんの描く『ヒロインの本気の愛』に全てもってかれた」って感じです。こと恋愛要素に関してはこの作品の右に出るものがいないのは間違いないし、作中に登場するヤンデレヒロインの魅力は筆舌に尽くしがたい。

今回はかなり真剣にレビューしようと思います。書きたいことが多すぎる。できるだけネタバレにならないように考慮して書きました。それではどうぞ。

 

1. 主人公クロノの造形

彼を一言で表すなら、"無個性"。所謂よくあるなろうテンプレな主人公です。恋愛感情に鈍感で、善良で、ただただ普通の高校生。辛辣な意見になりますが、個人的に彼には魅力を殆ど感じなかった。しかしこの作品を読んでいて彼に不快感を持つことも殆ど無かったことも事実。このようなハーレム系の作品では優柔不断な主人公にヘイトが集まりやすいことを考えると、この主人公は決して悪いキャラクターではない。

いやむしろ、この作品における彼、クロノのキャラクター造形は、ほぼ完璧なモノなのではないかと私は思っている。この作品のメインは明らかにヤンデレヒロイン達であり、クロノはヒロインたちが死に物狂いで求めるトロフィーに過ぎず、彼女らを魅力的に描くためのただの触媒でしかないのだと感じた主人公がいないとそもそもヒロインは成り立ちませんし、クロノは優しい・強い・カッコいいと必要最低限の要素を抑えたスタンダードで丁度良い主人公だと思う。

また、このようななろう系のハーレム展開において主人公にヘイトが溜まりがちになるのが『優柔不断』といった属性であることはよくあると思われる。ここで上手いと思ったのが、主人公のヒロインに対する気持ちを全て『親愛感情』で描いていたという点。

どっちが好き、誰が一番好き。そういうのは恋愛感情における優先順位であって、親愛の情においては意味をなさない理屈である。
---第498話「嵐の前の静けさ」より

主人公は仲間であるヒロイン達を分け隔てなく好いていた。全員が好き、それでいいのだ。だってそれは親愛の情であるから。まあ依然として鈍感属性があることは確かなのですが、それはストーリーを成り立たせる以上必要なモノであっただろうし仕方がないことではあると思う。というか昨今のラノベ系主人公なんて殆ど鈍感属性持ちなんだし、もう皆さんもそういうのに耐性が出来てるんじゃなかろうか。

2. ヤンデレヒロインによる正妻戦争

一言、最高でした。このヤンデレ少女達による正妻戦争こそがこの作品の核であり魅力だということはもう間違いない。作者さんの「ヒロイン同士で殺し合う作品が書きたかった」という言葉にこの作品の全てが集約されている。ヒロイン達が主人公を得るために恋敵を策略に嵌め、蹴落としていく様が最高に輝いていて素晴らしい。そしてまた彼女らの心理描写が凄いのだ。主人公に対する愛によって道を踏み外していくヒロイン達は、ただただ魅力的である。

そして読んでいる最中に思ったのが、"ヘイト管理の上手さ"。私がハーレム作品を読んでいて一番ストレスが貯まるのが、後半に登場したヒロインによって最初から主人公との仲を育んでいたヒロインが蔑ろにされてしまう展開。私はこういう展開が本当にニガテであまりハーレム作品を好まないのですが、この黒の魔王にも勿論そういう展開が存在した。

中盤、主人公の仲間枠である初期ヒロイン二人と離れ離れになる展開で、新たなヒロインが登場した。それが穢れを知らないお姫様みたいなキャラクターで、いやいや黒の魔王の作風には合ってないだろうと思いながらモヤモヤしながら読んでいた。因みに新ヒロインとのいちゃこらは丸々一章分使われます。そして新ヒロインにヘイトを貯め切ってから満を持しての初期ヒロイン帰還。そこからのあらゆる手段を使って主人公は私のモノだと奪い返し、新ヒロインを精神的に追い込んでいく初期ヒロイン達が最高でした。

いやまさか善玉なお姫様ヒロインがかませ枠だとは思わなかった。もう彼女が追い込まれていく様子は最高にゾクゾクきたし、初期ヒロイン達に快哉を叫んだ。とにかく純真無垢な娘の表情が曇っていくのが好きすぎる。彼女は今後さらに地獄を見ることになるのですが、正直彼女は絶望してる姿が一番可愛い。こういう感じでヤンデレ化していき、ヒロインの資格を得ていく訳です。はい、黒の魔王はこういう倒錯した悦びを得られる小説です。

ここで新ヒロインが負けた理由が主人公への愛が足りないってのがまた最高です。ぽっと出の後出しヒロインが旧ヒロインの愛に敵うはずがありません。基本的に今作におけるヤンデレ戦争で勝つのは主人公への愛が最も強い者です。このうえなく正当な基準だと思うし、一番主人公に執着している子が報われるのはやはり良い。

第一次ヤンデレ大戦終結において、とあるヒロインが他のヒロイン達を蹴落として、晴れて主人公の彼女になることが出来るのですが、このあたりの話は本当に良かった。鈍感主人公に焦らされ焦らされ満を持しての恋愛成就だったのでカタルシスが半端なかったです。主人公を得るために絶え間ない努力を行い、冷静に機を伺って、恋敵を出し抜いた彼女は最高に輝いていました。まあその後第二次、第三次とヤンデレ大戦は続いていくのですが、負けヒロイン達の逆襲がどのような様相を呈していくのかは是非自分の目で確かめてくださいという感じで。

このヤンデレ戦争における最大の副産物は、負けヒロインであると私は思う。争いには勝ち負けがあり、好きなヒロインが勝つのは勿論嬉しい。しかし負けヒロインは最高に可愛いという事もまた真理である。あの夏のカンナちゃん、とらドラみのりん、truetearsの乃絵などなど。勿論彼女らも報われてほしいし、幸せになってほしい。しかしヒロイン戦争に負けて悔しさに涙を流す彼女らは、ただただ魅力的なのである。でもまあ作者さん曰く黒の魔王はハッピーエンドらしいので安心です。これ収拾つくんだろうか、とは思いますが。

この作品におけるヤンデレというのは単なる萌え属性では無いということも明言しておきたい。ただ主人公への愛が強く、深く、重い、というのが重要。主人公を独占したい、ハーレムなんて許さないと思うのは当然あるべき感情である。この作品で描かれるのは紛れも無い”本物の愛”であり、これこそが黒の魔王という作品の主題だと私は感じた。

作者さんが活動報告にてこのようなコメントをしていた。

そもそもラノベもなろう作品も、あんなにハーレム要素で溢れているのに、ガチの修羅場要素って少なすぎませんか? 需要がないんですか? そうですか。ヒロインは綺麗に描きたい。可愛くありたい。作者としては当然ですが、でも、読者としては、本当にそれを求めているんでしょうか。少なくとも、私はソレだけで不満だったから、黒の魔王があります。

愛が足りない。どいつもこいつも、愛がまるで足りていない。すぐ惚れてもいい。チョロくてもいい。でも、一度好きになったのなら、愛を貫けよ。身を引くな。一歩も引くな。死に物狂いで食らいつけ。告白を聞き流されても諦めるなよ。面と向かってフラれても諦めるなよ。そんな簡単に恋敵(ライバル)を許すな、打ち解けるな。この人には勝てない、あの人には敵わない。もっと挑め。正々堂々挑め。奇襲、罠、謀略、策略、何でもいい。全身全霊、全力で挑め。みんな一緒でもいいよ。ふざけんな、そんなワケあるか。許せるはずがない。勝者は常に一人。だから求めろ。絶対に諦めるな。這いつくばって、泥を啜って、血反吐を吐いて。女の子にあるまじき、どんな無様を晒しても、どんなに醜い心を暴かれても。最後の最後まで、追いかけ続けろ。だってお前――ヒロインだろ!!
ーーー 第一次ヤンデレ大戦終結|菱影代理の活動報告 より


脱帽した。このヒロインに対する熱い情熱が凄い。だからこの作者さんの描くヒロインは本当に皆尖っていて魅力的で最高に可愛いのだ。他にも活動報告で主人公論とかヤンデレ論とか色々語ってらっしゃるので、是非読んでみてほしい。とても興味深いです。

 

3. サブキャラクターについて

打って変わって辛辣な意見になりますが、この作品を読んでいてヒロイン以外のキャラクターに魅力を感じたことは殆ど無かった。ヒロイン達のキャラクター性が強すぎるのも一因だと思いますが、どうもサブキャラを増やしすぎて収拾がつかなくなっている印象を受ける。とにかく中途半端なのだ。中途半端にキャラクターを掘り下げておいて、その後は殆ど登場しないというのが多すぎる。作者さん的には今後の伏線のためなど色々な理由があるのだろうけど、なまじ文章が丁寧なせいで(悪く言えば冗長)この作品のテンポが悪くなっているのは事実であると思う。

そしてもう1つ、この作品のサブキャラに言いたいことは「美形が多すぎる」ということ。とにかく登場するキャラが美少女、美女、超絶美少女、美形・・・。こうも全員が美形だと特別性が無くなるし、作品が安っぽくなる。何よりキャラが登場するたびに「~の美少女」「~の美貌」といちいち何度も何度も描写されるのがとにかくキツかった。

 

4. ストーリー・戦闘描写について

『黒の魔王』の文章の半分以上は戦闘描写であると言っても過言ではない。私はその大部分を読み飛ばしていた。単純に面白くなかった。展開が容易に想像できるのだ。追い込まれて、逆転して、勝つ。負けることも度々あるが、それもストーリーの流れから予想できてしまう。また厨二病患者が喜びそうなオリジナル設定が飛び交う戦闘描写が長ったらしくてくどいということや、雑魚同士のどうでもいい戦いまで数話使って丁寧に描いてくれるもんだから、斜めに読み飛ばしてしまう。正直バトル要素に関してはテンプレ作品の域を出ないと思う。

続いてストーリーについて。主人公は元の世界で文芸部に所属していて、その頃にとある自作小説を書いていた。そして同郷の転生者にその小説について批評されるシーンがある。

「では――貴方の文才は、中の下です。ストーリーはどれもRPGのように平坦、かつ、定番の展開ばかり。オリジナリティに欠ける、と言い切って良い。登場キャラクターも同様。記号的なキャラクター性ばかり。それ以前に、一人称視点である主人公を含めてさえ、人間としての心理描写に致命的なまでにリアリティが感じられない。フィクションにはフィクションなりのリアリティがあるのだと、意識するべき」

(中略)

「作品のヒロインとして惚れる理由としては十分。しかし、これらの理由のどれ一つとして、オリジナリティを感じる部分はない。読者はエリーという奴隷の少女のキャラクターが登場した時点で、これらの定番の理由・展開は即座に思いつく。そして、全くその通りに語られたならば、そこには何の意外性も独自性もない、ただ、型通りの物語があるだけ。二番煎じにすらならない」
---第569話「失った手足」より

殆ど私が「黒の魔王」について感じていた事と一致していた。 しかしここで私は「なろう小説のストーリーはテンプレで十分」と主張したい。魅力的な登場人物と王道のストーリーと、あとワンポイントのアクセントがあればもうそれで完璧だと思うんです。使い古された展開であっても、やっぱり面白いものは面白いのです。問題はそれをどのように描くかということだと思うのだ。

有象無象のサブキャラ達による寄り道は多々ありますが、私は黒の魔王のメインストーリーについては普通に面白いと思った。

でもやはりストーリーが長すぎるというのは読んでいて強く感じた。前述した通りこの作品は寄り道が多いので”引き延ばし”されている感は否めない。特に中盤あたりが一番読むのが辛かった。ただ、第一次ヤンデレ大戦が始まってからは間違いなく面白い。そこにたどり着くまでの約200万文字を読破できるかが問題なのだ。また作品の最大の山場である第三次ヤンデレ大戦までは350万文字ありますからね。ここまで達することなく序盤中盤で読むのを止めてしまった人はかなりいるのではないかと思う。

 

5. 後書きについて

皆さんは後書きについてどう思っているのだろう。私は事務報告以外に後書きを書く作品が心の底からニガテでして。特に「作者の声」みたいなのが本当に駄目。

リアルタイムで作品を追っている方なら、あの一話ごとに入る作者からのメッセージは気にならないだろうけど、一気に作品を読もうとしている側からしたら後書きはただ邪魔でしかない。せっかく作品に没頭しているのに、アレのせいで一気に現実に戻されることが何度あったことか。とまあ、ただの一読者の愚痴でした。




結構散々に書いてしまいましたが、個人的には10指に入るレベルの傑作でした。素直に面白かったし、なろうで初めて本物の”修羅場”というのを読めたように思う。

個人的な推しヒロインは フィオナ≧リリィ>サリエル>>>ネル といった感じです。フィオナとリリィは超僅差です。今後の展開によって変動しそうではある。

約5年の連載を経て、今なお連載中の黒の魔王でありますが、まだ色々と伏線は残ってますし完結はまだまだ先になりそうです。完結したらまた1から読み直そう。

以上、黒の魔王のレビューという名のただの感想でした。

黒の魔王

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