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殺戮に彩られた百合の花 -『氷の滅慕』

なろう備忘録第36弾。

あらすじ:
少女は血にまみれ、凶刃を振るい、命を搾取する。愛する人のために強さを求めた彼女は、人の域を越えた力を身につけ、精神の惨状へと踏み込んでしまう。


自分でも制御できない程の愛で狂ってしまった少女。
最愛の人を奪われた少女は、絶望し、泣き叫び、そして復讐を誓った。

少女は力を得るために血を啜った。
肉を食むたびに心は病んだ。
命を摘むたびに人から外れていった。

これは、常識、倫理、道徳観を失い、愛欲のみが残ってしまった少女の物語。



こんばんは。ここ1週間はもうずっとこの作品を読み耽ってました。
5章まで読み終えたところでこの記事を書いているのですが、なんというかもう衝撃の展開すぎてほぼ茫然自失の体になっている。ネタバレになるので詳しく書けないのが残念ですが、とにかくとんでもない作品に出会ってしまったという感じです。

作者さん曰くこの作品のテーマの1つは『狂気』であるらしいが、その描写力が本当に凄かった。一見普通のように見えるが、実際には致命的に思考回路がおかしくなっている狂人の描き方が卓越している。少しずつ、徐々に徐々に、その狂気が周囲に伝染していく様も良い感じに薄気味悪くてもう最高でした。

またこの作品のもう一つの特徴が、ガールズラブ要素が多分に含まれているところ。露骨な描写は少ないのですが、それでもかなり踏み込んで描かれるので、ここは結構人を選ぶかもしれません。メインキャラの一人が夜のテクニックで周囲の女性を落としまくって百合ハーレム築いたりしちゃいますからね…。

あと特筆すべきところは、少女の周囲の人物がとにかく報われないところだろうか。盲愛にとりつかれた少女は一貫してただ一人の女性しか眼中になく、頭もおかしくなってるので、彼女の仲間達はその狂気に引きずられて道を踏み外していく。正直彼らがこの先幸せになる未来が見えない。しかしこのままバッドエンドでも良いのではと思ってしまうほど『悲劇』としてのストーリー展開は申し分ない。

舞台設定もまた魅力的。『一二国記』を彷彿とさせる、16人の魔王が各地に君臨している世界。親交を深めたり、諍いあったりしている彼らの群像劇が読んでいてとにかく面白い。思わず親しみを覚えてしまうような交流をしているかと思えば、人間の領地に踏み入り魔王一人で数万を越える圧倒的な殺戮を行ったりする。

この物語に登場する派閥は神族・魔族・人間の3つ。各々が自らの正義を持っており、信念に従って行動しているので人間族が魔族に蹂躙されても特に胸糞悪くなることもなかった。というか魔王陣の方が人間側に比べて割かしまともなので、魔族側で物語を読んでしまう人も多いのではなかろうか。私もそうだった。

とまあこんな感じの小説です。ネタバレ気を付けて書いたのでよく分からないとこもあるかもですが、少しでも気になったら是非読んでみてほしいです。紛うことなき傑作なので。

氷の滅慕 - 小説家になろう


以下、ネタバレありの備忘録兼、雑感。
好きなシーンを抜粋しつつ感想やら書いていきます。


 

――子供はうっとうしい


それが何故……こうなった?
今の白蓮は、こちらを見上げて来るアルフラの、潤んだ瞳にたじろいでいる。今にもこぼれ落ちそうな涙に、心が痛む。

――私は弱くなった

<氷の滅慕 - アルフラ攻略 そして瞬殺>


なんとなく拾っただけのアルフラとの交流によって次第に絆されていく白蓮さん。得てして溶けかけの氷は脆くなるもので。

近い未来に離れ離れになってしまうことを伝えなければならないのに彼女を慮って言い出せなかったり、涙目のアルフラに庇護欲をくすぐられていつもより多く血をあげちゃう白蓮さん可愛いんじゃ…。

1章終盤の行くところまで行ってしまった彼女らの関係性も堪らん。互いに相手しか見えていない視野狭窄に陥って、どろどろに依存しあう感じ。百合と共依存の親和性。

 

 

人の温もりを知り、溺れそうな程の愛情を注がれた白蓮の心は、ふたたび凍りつく事を拒み、無くした物を取り戻そうと足掻いていた。

<氷の滅慕 - さらなる進化>


アルフラと引き離された淋しさを紛らわすために、周りの少女や、果てには女魔王にまで手を出し始める白蓮さん。その美貌と房中術で女たちを手籠めにしていくの最高です。

灰塚もウルスラも魅月も傾国ちゃんも好きすぎる。時折はいる白蓮ハーレムの日常こぼれ話みたいなのがすごい好きだった。ノクタに灰塚×傾国ちゃんがきゃんきゃんする話が載ってるんですが(最高でした)、他の組み合わせも是非読んでみたい……。

みるふぃーゆ騒動は滅茶苦茶笑った。傾国ちゃん本当良いキャラしてます。

 

 

 「あぁ……白蓮、やっと会えたね」

還元されない愛情。抑圧された想念。――無意識領域下の強い思慕は攻性に転じる。

<氷の滅慕 - オウマガトキマゾクノチニクルフアルフラ>


個人的に好きな一文。アルフラの異常性のようなものが浮き彫りになっていて妙に心に残った。「強い思慕が攻性に転じる」のインパクトが凄い。

5章の白蓮とアルフラの再会シーンは色々と惹きこまれた。感情が暴発し二人の周りのあらゆるものを凍り付くし、たった二人だけの世界で。言葉を交わすほどにどうしようもなくすれ違っていく様が、怪物に成れ果てたアルフラの慟哭が、あまりにも辛くて、それでいてゾクゾクする。

 

 

 「あたしは怖いよ、アルフラちゃん。――あたしは、死ぬのが怖い。アルフラちゃんが死んじまうのが、怖いよ……」

シグナムの視線の先では、地に爪を立て、ようやく体を起こしたアルフラが、暗い眼差まなざしで彼女を見返していた。

「……そんなことより……あたしは白蓮と会えないことのほうが、ずっとつらい……」

<氷の滅慕 - 強く儚いもの>


シグナムの必至な言葉を「そんなことより」と一蹴するアルフラが好き。ここで心が折れてシグナムの手を取るアルフラなんか見たくない。結局アルフラは始終白蓮しか見ていなくて、周りの仲間たちとの間には埋められないほどの溝が出来ていた訳で。これまで彼らが体を張って、信念を押し曲げてまでアルフラに捧げた献身は、まったくもって微塵も彼女に届いていなかった。それが如実に現れたシーンだと思います。シグナムさんマジ報われない……。

この後のアルフラとフレインが抱擁するシーンも、どうしようもないほどに歪んでいて、最高に素晴らしかった。個人的にはこの回が一番好きな話かもしれない。

 

 

通常の感性を持つ者が踏み込めば、嘔吐しかねないほどの嫌悪を催すその部屋で、アルフラは黙々と食事を貪むさぼる。人はそれを鬼畜の所業だと非難するだろう。

おのれの欲望のために人を殺し、あまつさえその血を啜っているのだ。確かに唾棄だきすべき行いである。しかしそれは、人間の倫理や良識といったものに照らし合わせた場合だ。それらは円滑な社会を形成するために人が作り上げたものであって、真理ではない。

みずからの糧として他者を補食し、生き抜く。それは個の生物として正しい。生命のあるべき姿と言えよう。

人の世の善悪を越えたところに、アルフラは立っている。

<氷の滅慕 - 善悪の彼岸 アルフラの最善>

 
落ちるところまで落ちてしまったアルフラ。なんというかもう、ただただ圧倒される。




とりあえずこのへんで。また追記するかもしれない。

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